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僕はモナリザを見たことがない

印刷物ではさんざん見たけど、ホンモノは見たことがない。……だいぶ前に松濤美術館小林秀雄が批評した美術作品だけを集めた展覧会というのを見に行ったんだけど、そのときにタブローっつうか額縁に入った実物(リアル)とそれを撮影した目録の写真(メディアの情報)の落差に今更ながらにビックリして「ああ、そういえばモナリザも見たことないなぁ」と思ったというわけ。

まぁ「ホンモノのモナリザを見たことがあるかどうか」というのは、日常生活からすれば別にどーってことないんだけど、よく考えると自分の眼で直接見られるものなんてごく限られてる。つまり、僕が知ってるほとんどのことはメディアを介して得たものであって、自分でリアルに経験したことではない。僕のモノの考え方や世界の見方は、そういう意味ではメディアという虚構の上に成り立ってるわけで、危ないと言えば相当に危ない。

で。そのメディアという虚構の上に成り立っている「僕」が考えたことや感じたことをさらにこうやってメディアの上に投げ出していたりもするわけで、悪く言えば「みんなで嘘の上に嘘を積み重ねてる」ようなもんじゃないか、とも言えるわけです。そいで、やっぱり「なんだかなぁ」とか思っちゃうわけなのだ。が、変にチベット密教とか修行した人なんか「この世界そのものが幻影である」なーんっちったりするわけだけど、それを言い出したらキリがないわけで……そんな偉そうな話を持ち出さなくてもよろしい。ね。

だからまぁ、僕は、ことあるたびに「ああ、僕ってモナリザ見たことないよなぁ」と思い出すことにしているのでした。



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