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第六弾へのコメント3---終業後の赤提灯や大部屋のレイアウトをデジタルな情報環境として再現すればいい

バカの壁』がこんなに売れたのは、誰もが一度は「話が通じない」という経験をし たことがあるにも関わらず、その経験が名付けられていなかった。つまり、対処ので きない問題だった。そこに「バカの壁」という絶妙のネーミングがされることで、問題の在処が明確になったからだという説がある。[松岡裕典
「問題が明確になれば答えは出たも同然」という考え方もあるが、ではこの「バカの壁」が難問でなくなったかというとそうでもない。この本にも答えは書かれていないし、答えがあると思って読むと失望する。実際にグーグルで「バカの壁」と入れるとかなりの確率で低評価の文章に行き当たる。
しかし、本質的な答えが得られないとしても、現実的なレベルでの解法(クリアする、あるいは回避する方法)がまったくないかと言うとそうではない。もし、回避する方法がないとするなら、この社会自体が林立する「バカの壁」に遮られて成立しなくなるはずだが、そんなことにはなっていない(そうなりつつあるというのもまた事実ではあるが)。
たとえば、仕事が終わってからの赤提灯、あるいはダラダラと長時間会社に居続ける日本企業の習慣、あるいは終身雇用という文化、あるいはパーティションで区切られない大部屋というレイアウトは、「バカの壁」をなくす、あるいは可能な限り低くする、あるいは回避する方法として無意識のうちに使われてきたのではないか。
赤提灯で交わされるのは、上司への、あるいは部下への愚痴だったり、会社のやり方に対する不満だったりするのだが、それは同時に自分たちが置かれている文脈、あるいは自分自身の位置を把握するための重要な情報になっていたはずだし、大部屋で聞こえてくる自分の仕事とは一見無関係なさまざまな会話は、企業全体の空気として(大げさに言うならばある種の暗黙知として)共有されていたはずだ。
そこで、橋本さんのいう「デジタルで文脈を調整するための技術って何かあるだろうか、考えてみるが決定的なものがまだおもいうかばない」に戻るなら、答えは出ているも同然になる。終業後の赤提灯や大部屋のレイアウトをデジタルな情報環境として再現すればいい、ということである。
業務に直結する情報だけを扱うナレッジマネジメントシステムには、こういった一見業務に無関係な情報による文脈調整の機能(暗黙知を取り扱う機能と言ってもいい)はない。それにふさわしいのはむしろネットコミュニティ的な機能なのではないか。たとえば、会社の帰りに「おい、ちょっと一杯やろう」には拒絶反応を示す若い人でも、自室に戻って自分の空いた時間にアクセスできるネットコミュニティであれば参加するかもしれない。
こういったネットコミュニティにナレッジマネジメントシステムを組み込んだもの、つまり「業務に直結する情報を扱うシステムと背景情報・文脈情報を扱うコミュニティを組み合わせたハイブリッド型情報環境」を作ればいいのではないかということだ。それが「ナレッジコミュニティ」と呼ばれるものの実態になるような気がするのだが、どうだろうか。
(Thu, 18 Mar 2004)