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デスクワーカーのための情報デザイン


いよいよ4月。きりもいいので、今回からこのコラムは実践編に衣替えすることにした。ところで「情報デザイン」が対象とする分野は少々幅広い……広すぎるので、とりあえず「デスクワーカー」に的を絞ることにした。デスクワーカーとは会社で事務作業をしている人、営業日報を書いている人、学生、研究者、家計簿を付けている主婦のみなさん、すべてが含まれる。全然的が絞れてないような気もするが。
情報デザインとは、一口で言うなら「あなたが獲得した情報を他人にうまく伝達するための技術」である。ここには「読む・書く」「聞く・話す」「描く」「編集する」あるいは「(写真を)撮る」など、あなたがいつも日常的に行っている様々な行為が含まれる。
以前はこれらは「文章術」や「話術」などの個別の技術として語られてきたが、コンピュータの登場と普及によって、これらの大半はコンピュータを使った操作に取って変わられつつある。社内や得意先との連絡には電話ではなく電子メールが使われるようになったし、社内報や広報誌はホームページに変わりつつある。
で、紙とインクによって作られた書籍とインターネット上のホームページが違うように、アナログ世界での「読む・書く」とデジタル世界での「読む・書く」は違う。いまはまだ過渡期なので、その違いはよくわからないが、『電子メールの書き方』といった本を読めばその片鱗はわかる。たとえば「郵便では、拝啓貴社ますますご清栄のこと……と書きますが、電子メールではもっと簡潔に書くべきです」といったように、文章の書き方自体が変わりつつある。
しかし一方、昔は、紙と鉛筆があれば文章を書くことができたが、ワープロを使うようになると、キーボードを使わなければならないし、計算も電卓と集計用紙ではなく表計算ソフトで作らなくてはならなくなった。さらにはこういったソフトだけではなくパソコンそのものに対する知識も要求されるようになってきた。本来しなくてもいい作業もやらなくてはならなくなった。でも、これも実は過渡期のなせる事態なのだけど。


■デジタル化は生産性を上げるのか、それとも下げるのか
ようするに、アナログからデジタルへの変化は単なる方法の変化だけではなく質的な変化ももたらした(しつつある)ということだ。たとえば、マイクロソフトの会長ビルゲイツ氏は毎日数100通の電子メールを受け取り、それらすべてに目を通すだけではなく返事を書くのだそうだ。アナログではおよそ不可能なことだろう。封筒を開けるだけで1日終わってしまいそうだ。
デジタルになって不可能なことができるようになった。というのは確かにそうなのだけど、でも“会社経営者であるビルゲイツ氏が1日数100通の電子メールを自分で処理する”というのはよく考えてみるとおかしな話である。それ以前に“パソコンそのものについての知識が要求される”というのも、昔でいうなら鉛筆や便せんについての知識が要求されるようなものだから、ずいぶんとバカバカしい話にも思える。
一昔前にはOAという言葉がブームになった。OAとはオフィスオートメーションの略であり、「コンピュータを使えば仕事が効率化されオフィスの生産性が上がります」というのがうたい文句だったのだ。で、今や時代は「一人一台コンピュータ」の時代である。これだけコンピュータが普及すれば生産性は飛躍的に上昇しているはずである。我々デスクワーカーは雑事をコンピュータに任せ、人間にしたできない高度な業務を行っている……ようになるはずだった。
が、事態はまるでそうなってない。現に僕は今日も1日機嫌の悪くなったコンピュータのおもりをしていた。あっちこっちの設定を変えても直らないので仕方なく、ソフトを再インストールして、で、もう深夜1時を回っている。あーあ、鉛筆と原稿用紙で書いてればこの原稿だってとっくに終わってるはずなのに。同じようなことを考えていらっしゃる方は多いに違いない。そう思うのは間違っているのか、正しいのか。僕は正しいと思う。……にもかかわらず、僕はコンピュータを使い続けている。なぜか?
実はそこに「情報デザイン」の秘密が隠されているのだ


[2001年04月05日]