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誰でも使える“ユニヴァーサル・コンピューティング環境”

前回、僕は“ファイル管理がきちんとできない”という僕自身の性格的な欠点を棚に上げて、“情報リテラシーや情報デザインですべての問題が解決するわけではない”と書いた。あまり褒められた態度ではないのは承知の上だが、“盗人にも3分の理”ということわざもあるぐらいで、僕にも3分、いや2分くらいの理はあるはずだし、僕と同じようにファイル管理で困っている人もいないとは限らない。
僕のような、ファイル管理の苦手なずぼらな人間に「ファイル管理はきちんとしましょう」というのは、どこかの首相に向かって「失言・放言は慎みましょう」というのに等しい。問題の根本的な解決が“そういう人を首相にしない”ことであるように、僕のような人間に対する正しい処置は”ファイル管理をさせない”ということだ。これをさらにブレイクダウンするなら“同じようなファイルがたくさん作れないようにすること”である。
では、なぜ僕が“同じようなファイルをたくさん作ってしまうか”というと”不安だから”である。貧しい人間は将来が不安だから一生懸命お金を貯め込むように、データを失うことが怖い“テクノ貧乏性”の僕はどんどんデータを貯金(バックアップ)してハードディスクをいっぱいにしてしまう。それはまるで、社会資本が貧しいために個人がため込むが故にお金が回らず不況になる、のになんとなく似ている……どこかで聞いた話だが。


■ハードディスクは1台、ファイルも1つ
 にも関わらずデータ消失の不安から解放される方法
ところで僕はソニーの初代VAIO-C1のユーザーである、といってもモバイル専用ではなくメインのマシンとしてだ。原稿だけならWindowsCEマシンや携帯端末でもいいのだが、仕事柄どうしてもPhotoshopでの画像処理やウェブページの制作・手直しが必要になることがある、となるとどうしてもこれ以下にはできないのだ。が、さすがにDreamWeaverだのFireworksといったソフトを使うとなると少々荷が重い。というわけで仕事場にはデスクトップのWindowsマシンもMacintoshもある。しかし、これらは作業用マシンであって決してメインマシンではない。
というのは、作業中のデータはすべてこの初代C1の中にあるからだ。つまり僕にとってのメインマシンとは“データがおかれているマシン”であって、アプリケーションや処理速度は実はどうでもいい。突き詰めていうなら僕にとってのメインマシンとは“いざとなったら作業もできるCPU付きのハードディスク”なのである。仕事先に行ってもそこにアプリケーションの入ったマシンがあればイーサネットで経由でデータにアクセスして作業する。アプリケーションがなければディスプレイだけ借りて作業する。それもなければVAIO単体で……ともかくハードディスクもデータは常に一つだから、“あ、あのファイルを忘れた”ということがない。しかも、喫茶店だろうが電車の中だろうが、やろうと思えばいつでもどこでも仕事ができる。それが幸せな生活かどうかはもちろん別の話だ。
では、このPCが壊れたらどうするか、置き忘れたらどうするか。大問題である。が、僕はファイル管理は苦手だが物理的に実体のあるものの管理はとても几帳面なのでそういうことはない。が、理論的には十分ありうる。だから、小さな携帯用のハードディスクや仕事場のマシンにはバックアップしてある。が、これらにあるデータにはいっさいさわらない。さわったが最後、例の“同期”という問題が起きるからだ。
こうやって僕は“同期”という作業からは解放されたのだが、まだ“バックアップ”という作業は残る。できればこの作業ももなくしたい。誰かやってくれないかな、と考えて思い当たったのがインターネットだ。たとえば、作業用のデータをインターネット上に置いておき、作業するときはそこから引き出して作業する。バックアップはインターネット側で勝手にやってくれる。サーバープログラムに“ファイルが書き換えられたらバックアップしろ”とセットしておけばいい。
これが実現するためには本人認証やデータのセキュリティの問題もあるものの、こうなれば僕はファイル管理という悪夢から最終的に逃れることができるはずだ。もちろん、まだこんなサービスはないと思うけど、似たようなことはジャストシステムが“インターネットディスク提供”という形ですでに始めている。そのうちにもっと一般的に使われるようになると思う。たぶん名称は“ストレージサービス・プロバイダ(SSP)”で、これがさらに進むと、使っているアプリや環境もまるごとこのプロバイダに置くことになるはずだ。それはたぶん“情報環境サービスプロバイダ(IEP)”と呼ばれるようになるはずだ。……しまった、ビジネス特許申請するの忘れた(笑)。


[2001年03月15日]