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情報デザインという窓から世界を見る旅

このコラムを書き始めてから1ヶ月になるが、ここでそろそろ方向転換をしたいと思う。理由は、このままどんどん突っ込んでいくと深みにはまりそうだからだ。そんな気分を図にしてみたらこうなった。
僕は、情報デザインについて語るなら「情報とは何か」について、仮にでもいいから概要をおさえておく必要があると思ってこういう話をしてきたのだけど、これはかなり根の深い話で、最終的には哲学的思惟とか宗教的悟性みたいなところに行きかねない、少々アブナイテーマなのだ。情報デザインをテーマにしてそういう話をするのはちょっと詐欺みたいで気が引ける。
とりあえず、図にあるように“この辺までは来た”と思う。で、この深さでも他に触れておかなければならないテーマはたくさんあるのだけど、僕も息が苦しくなってきたので、潜るのをここで中断、いったん浮上して“情報デザインを巡る様々な領域”を横断的に、かつ、勝手気ままに見ていくことにしようと思う。喩えて言うなら、スキューバからスノーケリングに一時的に転向するようなものだ。スキューバもいいけど、リゾートならスノーケリングのほうが楽しい……でしょ?
これからしばらく「情報デザインという窓から世界を見る旅」に出てみようと思う。イメージとしては、テレビ朝日の帯番組『世界の車窓から』……ニュースステーションの前にやっているほんの数分の番組だけど、あれがモデル。どこから出発するか、やはり近場からにしよう。たとえば、このコラムから。


■“情報デザイン”と“編集”はどう違うのか
というか、すべての情報はデザインされている、と言ったほうが正しい。いま僕はこのコラム原稿を書いているわけだが、僕は読み手であるあなたの姿を思い浮かべながら、こういう風に書いてわかってもらえるだろうかと、言葉を換えてみたり、文章の長さや順番を変えたり、言葉にしにくい部分を図にしてみたり……額に汗しながら、あれこれ試行錯誤している。つまり文章を書くというのも情報デザインだ……と僕は思う。
だから……「論文を書くのもビジネス文書を作るのも“情報デザイン”である」と言ってしまってもいいのだが、そう言ってしまうと話が粗雑になる。「論文を書くのもビジネス文書を作るのも“編集”である」とも言えるからだ。いわゆる“編集”とここで言う“情報デザイン”と、いったいどこがどう違うのか……簡単に言うなら、枠組みの違いである。
たとえば単行本を作るとする。いまならまずマーケティングありき、だろう。対象読者はどの程度のボリュームか、広告出稿はどの程度見込めるか、ようするに儲かるか儲からないかだが、ここがクリアされてやっと「じゃどんな内容にするか」という話になる。そしてブレストが始まり企画が出来てくる。次にスタッフやライターが選定される。そのあたりからがいわゆる編集の担当領域である。
一方、情報デザインは最初のマーケティングの領域から関係する。つまり「誰に何をどう伝えるか」を決めることから情報デザインという作業はすでに始まっていると考えるべきだ。そして、それは企画・編集・デザイン・印刷・流通・読書にいたるまで貫徹する。つまり、情報デザインが受け持つのはそういった様々な作業を連結する軸を作り維持する役割なのである。だから「編集にも“情報デザイン”を踏まえた編集と踏まえない編集がある」ことになる。
そういう意味では「伝える」という目的が具体的な作業という手段の中で見失われないようにするための理念とか指針のようなものなのであり、そして、かといって単なる出版理念のようなお題目として掲げられるようなものではなく、個別の作業手段の中に技術あるいは具体的なツールや仕組みとして実装されていなければならない……といったものなのだと思う。
もちろん、こういうのは定義の問題ではある。ここで情報デザインを編集と言い換えていけない理由はない。要は「どう考えたればスッキリ腑に落ちるか」ということなのだ。法律にしたところで最終的には運用解釈次第であり、その時代の一般的な常識に照らし合わせて大多数が納得すればそれは正しいとされる。伊藤整の『チャタレイ婦人の恋』が有罪になり、週刊現代ヘアヌードは何のお咎めもないのは、ようするに時代の常識が違うからなのだ。そこに明確な法的根拠なんかない。
少々脱線したが、編集という言葉を拡大解釈することはできるし別にかまわない……が、僕はそうするよりも「情報デザイン」という言葉を当てはめたほうが個人的にスッキリするからそうしているだけだ。「誰に何をどう伝えるか」がいい形で実現できるのであればその方法論にどんな名前を付けたって勝手だ。最終的な判断は読み手であるあなたがすることだと思う。
僕は「情報デザイン」という言葉を「哲学を持った道具、実用に使える哲学」みたいなものとして定義しようとしている……ような気がする。曖昧で申し訳ない。


[2000年12月21日]