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情報デザインから情報環境デザインへ

さて「情報デザインとeビジネスの関係」については折りに触れ取り上げるとして、この「情報デザイン」について、もう少し記しておくことにしたい。
この言葉が一般的に認知されるようになったのは1989年、アメリカのリチャード・ソール・ワーマンというデザイナーが『Information Anxiety』という書物を出版してからだ。日本でも『情報選択の時代』という書名で1991年に日本実業出版社から松岡正剛さん(同姓だが親戚ではない)の翻訳で出ている。ちなみに今でも新刊書店の棚にある。
ともかく、僕はこれ(翻訳版)を読んで「よかった」と思った。「内容のよしあしは別にして僕の言いたいことはほとんど書いてある。これを紹介すれば僕が下手な文章を書くまでもないな」という意味で「よかった」なのだが、僕は嬉しくなって当時ことあるたびにこの本を紹介した覚えがある。
しかし、この「情報デザイン」は、あくまでデザインの領域で語られる言葉であり、取り上げたのもデザインの専門誌だったから、出版関係者もコンピュータ関係者にもそれほど注目されなかった。昨年あたりから大学に「情報デザイン学科」が作られるようになったが、その大半は美術系の大学におかれていることを見る限り、その事情はあまり変わらないようだ。


■情報デザインは視覚的デザインに限定されない
これは少々期待はずれで僕の思惑とは違う。デザインとなると一般の人は視覚的なデザインを思い浮かべてしまう。情報デザインにはたしかにそういう側面もあるが、それがすべてではないし、それなしに成立しないものでもない。視覚的な要素がフィーチャーされすぎると「情報デザイン」の全体像が見えなくなってしまいかねない。
情報デザインは、むしろ情報リテラシーメディアリテラシーとの関連の中で考えられなければならない。…そんなことを考えていて、僕は「情報環境」という考え方の枠組みを作ったほうが誤解の可能性も低く、全体として考えやすく伝えやすいのではないか、と思うようになった。
大枠としての「情報環境」があり、そこには当然送り手と受け手が存在し、それを考慮した上で情報の構造や機能や視覚効果をデザインする行為が「情報デザイン」、そして送り手や受け手の情報処理スキルを向上させるのが「情報(処理)リテラシー」、そして情報を扱う機器を扱うスキルアップを担当するのが「コンピュータリテラシー」ということになる。情報環境との兼ね合いでいうなら最も近いのが「メディアリテラシー」と呼ばれる分野である。
つまり、今「情報デザイン」と言ってしまうと、この狭義の「視覚的な情報デザイン」と混同される危険性が高い。ただでさえ漠然としている「情報デザイン」をもっと曖昧にしてしまう可能性がある、というような理由、それに加えて環境=エコロジー的な観点を情報という分野に持ち込むべきである、という想いもあって「情報環境デザイン」を使うことにしたのだ。


[2000年11月23日]