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肩書きとしての「情報環境デザイナー」

僕は今年から「情報環境デザイナー」を名乗ることにした。とはいえ仕事の過半は相変わらず企業のウェブサイト構築。手前の「我が社はどうすればIT化できるでしょうか?」あるいは「我が社もe-ビジネスに取り組みたいのだが…」というご相談に乗ることもあるのだけれど。
こういう仕事なら、普通、肩書きは「ウェブ・デザイナー」か「ウェブ・プロデューサー」、さもなくば少し格好を付けて「ITコンサルタント」と自称すべきなのだろうが、僕はそういう肩書きを使いたくない。
それらは僕が本来やらなければならない仕事を示す肩書きではない…ということを、ふと思い出してしまったから。そのきっかけは今年のはじめ、某大学で行った講演だ。あたふたと、その準備をしているうちに「…うーん、僕はここ数年間、いったい何をしてきたんだろう」という思いに囚われてしまった。(*1)
10年と少々昔(ネットイヤーからするなら大昔と言うべきか)、ある雑誌に「情報デザイン基礎講座」という連載記事を書いていた。テーマは「我々はどうすれば情報とうまくつきあえるのか、そのためには何をどうすべきなのか」である。
僕はその頃出版関係のデザイナーだった。デザイナーと言ってもグラフィックデザイナーではなく編集デザイナー。編集デザイナーとは、編集者とデザイナーのハイブリッド的存在で、自分でデザインもやる編集者とも、編集者の感覚のわかるデザイナーとも言える中途半端な存在だ。
なぜだかわからないけど、僕は昔から上手に専門家になれない。どうやっても専門家と専門家の間の、名前の付けられない奇妙な空間に入り込んでしまう。で、いつだったか僕はその「名前の付けられない奇妙な空間」に名前を付けてしまえばいいということに気が付いた。それが「情報デザイン」。
しかし、そんな言葉はどこにもなかった。知人に話してもごく一部を除いてきょとんとされるだけだった。…そんな言葉を肩書きに付けるわけにもいかないなと、僕はその言葉を数年間使えないでいた。
で、話は戻るのだが、その「情報デザイン」について自由に書いていい…という許可をもらって、一生懸命考えて…書いたのがその「情報デザイン基礎講座」という記事である。そのわけのわからない、名前の付けられない奇妙な空間について記述する(考える)絶好のチャンスだったから。そして、このコラムは実はその連載の続編なのである。


■情報デザインとe−ビジネス
そんな個人的な想い出話はいいとして…それとe-ビジネスとどういう関係があるのか…と思われるかもしれない。直接は関係ありませんとひとまずお断りをしておきたい。というのは、e-ビジネスという枠組みの外に出ることも必要だと思うから。
大きな流れの中に居ては見えないこともある。昔風に言うなら岡目八目だし、システム理論的に言うなら観察者的関与とでも言う立場だ。
誰もが「これってあたりまえでしょう」を「ほんとにそうか」と一歩退いて立ち止まり、その「あたりまえ」を疑ってみること。その視点に立つことによって全体の枠組みを見直すこと、本質を見つめ直すこと…それは少々迂遠なように見えながら、逆に新しいビジネスのあり方を発見する契機になるのではないか。と。