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ディスプレイの上の文字は「文字」ではなく「声」なのではないか

たとえば、電子インクがうんと高度になって、紹介されていたような「本とそっくりのハードウェア」ができたとして、果たしてそれは「本」なのだろうか、「本として読めるのだろうか」というと、僕にはどうも疑問です。その「本そっくりのマシン」上の電子インクの文字は通常の本のように「インク」として定着されているわけではありません(「定着」の問題については指摘されていましたが)。それは文字のように見えて実は文字じゃない、と思うのです。文字のような何か、あえてたとえるなら「声」のようなものではないか、ということです。

ディスプレイで校正ができない理由、長文を書くのに苦労する理由、BBSでの文章が限りなくおしゃべりになってしまう理由、すべてはこの「定着されていない」という「声」のような性質によると思うのです。つまり、ディスプレイ上の文字は「うつろいゆく儚いかりそめの文字にに似た何か」であり、それに対して僕らは「紙の上のインク」ほどの安心感や信頼感を持つことはできないのではないか、ということです。たとえそれがCD-ROMのように物理的に書き換え不可能だったとしても。ですから、僕は「既存の本をディスプレイで読ませる」ということに対して基本的に懐疑的にならざるを得ません。その意味では「コンピュータで本は読めない」と思います。