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羅針盤パスポートの隠された意味

これは元々は「どうやってアンケートを取るか」から出てきたものですが、「プライベートメモ」「個人書斎」となって、まったく別の意味を持つようになったと考えます。それは一言で言って「ホームページのパーソナライズ(個人化)」です。その意味でおそらくホームページのターニングポイントになるものです。

すでにたくさんの個人ページがありますが、これは本当の意味での個人ページではありません。なぜなら「公開」されているからです。本当の個人ページとは自分の部屋と同じように「自分だけ、あるいは、ごく限られた知人にしかアクセスを許さない空間」であるはずです。羅針盤パスポートによって実現される「個人書斎」とは、電子時代の隠れ家になるでしょう。

「やっぱり電子メールだよ」という話はBBSの頃から聞きます。これは「やっぱり郵便だよ」とはまったく意味が違い「電子メールの交換によって成立するプライベートなサイバースペースが必要だ」という気分を表しているのです。もっと端的に言えば「感覚を共有できる(気心の知れた)特定の人間としか口を聞きたくない」という性向が言わせるのです。

近代(個人の成立)は物理空間の個人化によって生まれたというのが通説になっています。イー・フー・トゥアン(だったかな)という中国系の研究者がこの辺のことを専門に研究していて、翻訳でも「個人空間の誕生」なんて本が出てます。

つまり、今までのBBS>ホームページにはこの「個人空間」にあたるものが存在しなかったわけです。その代替物として「電子メール(あるいはメーリングリスト)が機能していたという解釈は充分に成立するでしょう。であるがゆえに、サイバースペースは奇妙にヒステリックだったり神経過敏になったり、あるいは逆に無神経な振る舞いをする人が出てくる。それは「自分の個人空間を持たず、常に他人の目に晒されている」ことによるのです。

おそらく、サイバースペースに「公共」という概念を導入しようとするなら、「個人空間の確保」はなににも増して優先されなければならないと思います。曖昧な電子空間を分節化し、リラクゼーションを可能とするものとして、それが必要なのです。

もちろん、本来ならば物理空間がその機能を果たすはずなのですが、現在の物理空間は都市化(=様々なメディア(電話・テレビ・パソコン通信など)によって浸食され、パブリックとプライベートの区別が溶け出してしまった空間)によってその機能を充分に果たせなくなっています。

インターネット上のホームページはシステム的にはまったくの公開空間です。システムオペレータはすべてのトラフィックを監視しうるわけですし、ハッキングの危険にも晒されています。しかし……あるいは……だからこそ、逆説的に、そこにまったくのプライベート空間が成立しうるのかもしれません。

その意味で、インターネット上の「プライベート空間」は極めて「日記」によく似ています。日記とは「読まれることを暗黙の前提として書かれる個人的な文章」だからです。ホームページで日記を付けるのが大流行するのは考えてみれば納得できる話です……が、また同時にこれが日本特有の状況(かもしれない)ということもあります。そこに日本の文化的特質が見事に表出されているとも言えるかもしれません。