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なぜ彼らは“病気”とみなされるか

コンピュータの世界にハッカーと呼ばれる人種が存在するのは、おそらくご存知だろう。誰の謀略なのかはわからないが、彼らにはいつのまにか“コンピュータシステムを破壊する犯罪者”というレッテルが付いて回るようになってしまった。しかし、決して昔からそんな風に考えられていたわけではない。人並はずれてコンピュータ、あるいはそれに代表される電子的なテクノロジーと“深くおつき合いしている”という意味では確かに変人ではあったかもしれないが。
では、なぜ“ハッカー=病気=犯罪者”ということになったのかといえば、彼らのうちの一部が、ペンタゴンやCIAや大学の大型コンピュータのネットワークに他人のIDを盗んで入り込み(ハッキングと呼ばれる)、データを改鼠したりプログラムを破壊する、あるいはウィルスと呼ばれる自己増殖/転移型の小さなプログラムを忍び込ませて、大型コンピュータやそこにつながっているたくさんの端末機の機能を麻痺させるようになったからである。そんなことをしたところで彼らには何の利益もないのだから、確かに“病気”と判断されてもしかたがない。
しかし、すべてのハッカーが彼らのような行動に出ているわけではない。ハッカーの中の穏健派は、PDS(パブリックドメインソフトウェア)と呼ばれる、著作権の独占を否定したコンピュータソフトウェア、そして、それを使う上でのノウハウや情報を、やはりコンピュータネットワークを通じ配布している。
それらのソフトウェアを使いたければ、PDSが蓄積されたホストコンピュータに電話をつなぎ、そこから必要なソフトウェアを自分の端末コンピュータに電話回線を経由して転送するのである。料金はこの時点では要求されない。実際にそのソフトウェアを使ってみて「使える」と判断したなら一定金額の寄付を送ればいい。中にはそれすら必要ない、つまり無料で使えるモノも数多くある。
その“穏健派”の代表格が、アメリカでFSF(フリーソフトウェアファウンデーション)を主宰し、GNU(グニュー)と呼ばれるプロジェクトを推進しているリチャード・ストールマンだ。GNUでは「一般公的使用許諾」という配布条件を満たしているソフトをフリー・ソフトウェアと呼び、これをすべて無償で配布している。「一般公的使用許諾」というのは、公開特許の考え方、つまり「誰もが自由にその特許を使えるが、誰かがそれを独占することは禁止する」とほぼ同じ。つまり「独占を防ぐための独占権」とも言える。
ともかく、彼らは、PDSはもちろん市販ソフトウェアであっても、インターフェースと呼ばれるコンピュータの基本的な操作手順や画面構成に対しては、著作権の独占は認めないと主張している。つまり部分的であれ、今話題になっている「知的所有権」そのものの否定につながる発言をしているわけだ。こちらも、ビジネス=資本の論理から見れば“病気”に見えるだろうことは想像に難くないし、彼らの行動はウィルスにまけず劣らず“犯罪的”に見えるだろう。